「メキシコの学校訪問レポート」      岡山市立吉備中学校       教諭  藤枝 茂雄

 

 在外教育施設への勤務は,海外在住の日本人の児童・生徒の教育に貢献できる機会であるとともに,現地の教育事情を実際に肌で感じるまたとない機会でもあります。今回は,私が4年間のメキシコ勤務において訪問・見学したメキシコの学校の印象について,簡単に述べてみたいと思います。

 メキシコの中学校が義務教育となったのは1993年の7月からであり,まだ日は浅いです。しかし,メキシコ政府の提供する公教育サービスが着実に成果をあげていることは公立の学校を訪問してみるとよく分かります。たとえばメキシコ市の公立中学校は,人口増加に校舎の建設が追いつかないために午前と午後の二部制をとっているにもかかわらず,生徒は熱心に勉強に励んでいます。そして,授業中の教室への訪問者があるときなどは,どの中学校でも生徒達は授業を中断し,起立して挨拶することで訪問者への敬意を表します。しかし,教育方法,授業内容に関しては,教師の一方的な教授と教科書をノートに写すなどの単調な作業の繰り返しの場面が多く見られ,日本の公立学校の教育水準に比べるとまだまだ改善の余地が感じられるのが正直なところでした。ところが,上流家庭の子女を対象とした私立学校となると,公立学校とはまったく状況が異なってきます。そうした私立学校の教育活動の水準はきわめて高く,私たちが見習わなければならないこと,考えさせられることが多くありました。それらの上級私立学校を見学して感じたことを3点ほど列挙してみましょう。

 

(1) ほとんどの学校でバイリンガル教育が行われていました。・・・どの学校においても経 営陣の確固たる経営方針がよくあらわれていましたが,総じてカリキュラムの半分は英 語で授業を行うなどバイリンガル教育を徹底しているところが多かったです。幼稚園か ら高等学校までの一貫教育を終えたときには母国語のスペイン語に加えて英語を完全に マスターさせることを保護者に対して明言しているところもありました。

(2) 教師の研修と授業評価方式が徹底していました。・・・ある学校ではバイリンガル教育 を行うにあたって教師全員に年間180時間の英語研修を義務づけていました。また,他 の学校では,それぞれの教師に教科ごとにスーパーバイザーがつき,授業に対して指導 助言または査定を行うシステムがとられていました。したがって,教師は授業時間外の 時間には,教育の質を向上させる教材研究や語学研修,コンピュータ研修などに専念す ることになります。

(3) 学校の施設や校庭の手入れが行き届いていました。・・・校内の施設を維持管理する専 門の職員が何人も働いていました。校庭は天然芝がきれいに刈りそろえられ,また,校 舎の保守点検が徹底していました。(メキシコでは階級社会的色彩が強いため,こうし たレベルの学校の時間割の中には「掃除」というものはまずありえないことは理解して おく必要があります。)